恋は理屈じゃない
お帰りなさい
琴美と会った二日後の土曜日の午後、結婚披露宴会場で装花作業をしていると、背後から声をかけられた。
「須藤さん」
この声は速水副社長だ。作業の手を休めて振り返る。
「副社長! お帰りなさい」
一週間ぶりの再会がうれしくて、つい頬が緩んでしまった。
「ただいま。これは約束していたお土産だ。受け取ってくれ」
「ありがとうござい……」
お礼の言葉が途切れてしまったのは、速水副社長の後ろに控えていた笠原さんの様子に驚いたから。笠原さんの両手には、顔が見えないほど箱が高く積まれている。
「まんじゅうにせんべい、チョコレートにクッキー。好きなだけ食べてくれ」
約束を忘れずにお土産を買ってきてくれたことはうれしい。でも太りたくない、という乙女心には微妙だ。
「こんなに食べたら太っちゃう……」
笠原さんからお土産の箱を受け取りながら、小さく愚痴る。
「そうだな。デブはヤバいからな」
自分の顎に手を添えた速水副社長の口角が、意地悪くニヤリと上がった。
もしかして私をいじめて楽しんでいる?
疑念を抱きながら、斜め上にある速水副社長の瞳をじっと見つめる。
「ん? なんだ?」
視線に気づいた速水副社長は腰を屈めると、私の顔を覗き込んできた。
「い、いえ、なにも……」
ほんの数秒、至近距離で視線が絡み合っただけなのに、ドキリと胸が跳ね上がる。
お姉ちゃんの彼氏である速水副社長を意識してしまって、恥ずかしい……。
慌てて視線を逸らすと、ほんのりと熱さを感じる頬に手をあてた。