恋は理屈じゃない
LOVE*4

なにがあったの?


第三週の火曜日。ホテル・グランディオ東京の店舗内での作業がひと段落してトイレに向かう。その時、一階のロビーを慌ただしく横切る速水副社長の姿を見かけた。

またこれから出張なのかな……。

『いってらっしゃい』と声をかけたいけれど、自然現象には勝てない。またしばらく会えないことを寂しく感じながらトイレに行こうとすると、あることにふと気づいた。

あれ? 笠原さんがいない……。

いつもなら速水副社長の斜め後ろには、秘書の笠原さんが必ず控えている。それなのに今日は、笠原さんの姿が見あたらなかった。

休暇? それとも風邪をひいたのかな? 秘書の仕事も大変だもんね……。

そんなことを考えながらクルリと背中を向けると、急いでトイレに向かった。



結婚披露宴の装花作業に追われる九月の連休初日を明日に控えた金曜日。ブーケ作りを終えて家に帰って夕食をとっていると、ドアホンが鳴り響いた。

「はい……まあ、速水さん!」

えっ? こんな時間に速水副社長が、どうしてウチに?

対応に出た母親が慌てて玄関に向かう姿を見た私は箸を置くと、急いで後に続く。母親が玄関ドアを開けると、そこにはお姉ちゃんのことをお姫様抱っこしている速水副社長の姿があった。

嘘でしょ? まさか今度はお姉ちゃんが酔っ払っちゃったの?

目の前の光景を驚きながら見つめる。

「蘭さん、少し体調が悪いみたいです。このまま部屋まで連れて行きます」

「あら風邪かしら。鞠花の時といい、本当にすみません」

「いいえ」

母親の言葉が、耳に痛い……。

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