恋は理屈じゃない
玄関に降りると、お姫様抱っこされているお姉ちゃんの足からパンプスを脱がせた。
「鞠花ちゃん、ありがとう」
「いいえ。お姉ちゃんの部屋は私の隣です」
「ああ」
革靴を脱ぎ、家に上がった速水副社長をお姉ちゃんの部屋まで誘導する。階段を上がりドアを開けると電気を点けて、布団をめくった。
ベッドの上に、お姉ちゃんの身体が静かに下ろされる。
「速水さん、迷惑かけてごめんなさい」
お姉ちゃんの弱々しい声が、部屋に響いた。
「いや。今はゆっくりと休んだ方がいい」
「……はい」
ふたりの会話はとても寂しげで、デートを楽しんできたような雰囲気が伝わってこない。
もしかして、ケンカでもしちゃったのかな?
ふたりの邪魔をしないようにお姉ちゃんの部屋からそっと出ようとすると「それじゃあ」という速水副社長の声が聞こえた。
えっ? もう帰っちゃうの?
具合が悪いとはいえ、あまりにも素気ない別れに驚いていると、私の前を速水副社長が通り過ぎる。その時、チラリと見えた彼の横顔が苦痛に歪んでいるのを、私は見逃さなかった。
足早に階段を下りる速水副社長の後を追う。一階にたどり着いた彼を呼び止めようとした時、母親が姿を現した。
「速水さん、よろしかったらお茶でも飲んでいってください」
「実はまだ仕事が山のように残っているんです」
「あら、そうですか。残念だわ」
「すみません」