恋は理屈じゃない
お姉ちゃん、嘘だよね?
速水副社長を見送ると脇目も振らずに、お姉ちゃんの部屋に向かう。
ふたりの間になにがあったのか知りたい。速水副社長をあんなに悲しませるなんて、お姉ちゃん、ひどいよ……。
鼻息も荒く家に入ると階段を駆け上がる。お姉ちゃんの部屋をノックすると返事を待たずにドアを開けた。
「お姉ちゃん、起きてる?」
「……ええ」
私に背を向けてベッドの上に横たわるお姉ちゃんが、小さな声で返事をする。
「副社長、とても辛そうだったよ。ねえ、なにがあったのか教えてよ」
もし、ふたりがケンカをしたのなら、その理由を知らないと仲裁できない。上半身をゆっくりと起すお姉ちゃんの口からどんな事実が語られるのか、その時をじっと待った。
「……鞠花ちゃん、私のこと、速水さんからどこまで聞いた?」
「どこまでって、副社長はなにも教えてくれなかった。ただお姉ちゃんが参っているから、傍にいてあげてくれって言われただけ」
速水副社長とのやり取りを教えると、うつむいているお姉ちゃんの手の甲に大粒の涙がこぼれ落ちた。