恋は理屈じゃない
「……鞠花ちゃん。私、速水さんと別れたの」
「えっ? 別れたって、どうして?」
思いがけない告白を聞き、驚く。
「私……私ね……」
声を詰まらせて泣き始めたお姉ちゃんのもとに慌てて近づくと、その華奢な背中に手をあてた。
速水副社長の言う通り、お姉ちゃん、相当参っているみたい。今日話をするのは、もう無理かもしれないな……。
そんなことを考えていると、お姉ちゃんが突然ベッドから立ち上がる。そして止める間もなく、駆け足で部屋を出て行ってしまった。
えっ? 今、お姉ちゃん、口もとに手をあてていたよね? もしかしたら……。
お姉ちゃんの異変に気づき、急いで後を追う。するとそこには、ドアを閉める余裕がなかったのだろう……。トイレの中で膝をついて、苦しそうに声をあげるお姉ちゃんの姿があった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「……鞠花ちゃん……ウッ」
「なにも言わなくていいから。ね?」
コクリと頷いたお姉ちゃんの苦しみが少しでも軽くなるように祈りながら、背中をさすり続けた。