恋は理屈じゃない
吐き気が治まったお姉ちゃんを支えながら部屋に戻る。着替えを済ませたお姉ちゃんがベッドに横になると、その身体に布団をかけた。
「鞠花ちゃん、私、妊娠したの」
口もとに手をあてて部屋から出て行くお姉ちゃんの姿を見た時から、そうではないかと思った。お姉ちゃんの口から事実を知らされ、喜びが胸いっぱいに広がる。
「お姉ちゃん、おめでとう。今何カ月?」
「三カ月の九週よ。昨日病院に行って、ハッキリわかったの」
「そうなんだ。それで予定日はいつ?」
「来年の四月だって」
「そっか。まだ男の子が女の子かは、わからないよね」
「ええ」
お姉ちゃんのお腹の中に新しい命が芽吹いたことがうれしくて、つい舞い上がってしまった。
「お姉ちゃんがママかぁ……って、あれ?」
ふと冷静になって考えてみれば、おかしなことに気づく。
お姉ちゃんと速水副社長が交際を始めたのは八月中旬。まだ付き合って一ケ月が過ぎたばかりなのに、妊娠三カ月って変だよね?
頭の中で必死に計算をしながら、首を傾げる。すると、上半身を起こしたお姉ちゃんが、震える声で事実を語り始めた。
「鞠花ちゃん、お腹の子の父親は速水さんじゃないの」
衝撃的なお姉ちゃんの言葉に、耳を疑う。
「ええっ? 嘘でしょ?」
「ううん。嘘じゃない。速水さんとは、一度もそういうことをしていないの。このお腹の子は百パーセント速水さんの子じゃないわ」