恋は理屈じゃない
出張が多い速水副社長とゆっくりとデートを楽しんだことがない、と、お姉ちゃんが言っていたことを思い出す。
「お姉ちゃん、ひどいよ」
大好きなお姉ちゃんが彼氏以外の子を妊娠するようないい加減な人間だったことが悔しくて、沸々と怒りが込み上げてくる。
「……ごめんなさい」
でもすでに妊娠してしまったお姉ちゃんを、今さら責めても仕方ない。大きく深呼吸をすると気持ちを落ち着かせた。
「それでお腹の子の父親は誰? その人と結婚するんでしょ?」
「……この子は私ひとりで育てる。そう決めたの」
お姉ちゃんはまだ膨らんでいない自分のお腹に手をあてると、そう言い切った。
「なにそれ。もしかしてお姉ちゃん、不倫でもしていたの?」
「ううん。違うわ」
「じゃあなんで、ひとりで育てるなんていうのよ!」
「……」
声を荒げる私とは正反対に、黙りこくるお姉ちゃんの態度が納得できない。私はある決意を固めると、お姉ちゃんのバッグに手を伸ばした。
「鞠花ちゃん、なにするの!」
悲鳴に近い声をあげるお姉ちゃんを無視すると、バッグの中身を勢いよくまき散らす。床にはお財布にポーチ、ハンカチにティッシュが散乱した。そんな中、目あてだったスマートフォンを手にする。そしてベッドから起き上がり、私を止めようとするお姉ちゃんの手を強引に掴んだ。