恋は理屈じゃない
「鞠花ちゃん……やめて」
涙を流すお姉ちゃんの姿を見ても、良心なんて痛まない。お姉ちゃんと共に、速水副社長を裏切った人物が誰なのか、すべてを明らかにしなければ怒りが収まらなかった。
抵抗するお姉ちゃんの指先を力ずくに掴み、スマートフォンのホームボタンにあてるとロックが解除される。お姉ちゃんから離れると、頻繁にやり取りを交わしている相手を素早くチェックした。その名前を見て愕然とする。
「嘘でしょ……ねえ、お姉ちゃん、嘘だよね?」
事実を信じたくなくて、すがるようにお姉ちゃんを見つめた。でも……。
「……お腹の子の父親は笠原彰(かさはら あきら)さんよ」
力なく床に座り込んだお姉ちゃんは、速水副社長の秘書である笠原さんが父親だと認めた。けれど、ふたりの接点がわからない。
「ど、どうして笠原さんとお姉ちゃんが?」
お姉ちゃんは頬に伝う涙を指先で拭うと床から立ち上がり、ベッドに腰を下ろす。そして呼吸を整えると、覚悟を決めたように私の目を真っ直ぐに見据えた。
「私……速水さんに交際を申し込まれる前に、彰さんと付き合っていたの」
「……っ!」
初めて知った事実に驚き、言葉を失う。
「入荷した花が入った段ボールを店に運び入れるのに手間取っていたら、偶然、前を通りかかった彰さんが手伝ってくれてね。それがきっかけでお付き合いが始まったんだけど……」
「けど?」
言葉に詰まったお姉ちゃんに話の続きを促す。