恋は理屈じゃない

「ケンカをしたわけでもないのに、ある日突然、彰さんから別れてほしいって言われてしまったの。理由を尋ねても、俺はキミにはふさわしくないとか、俺よりもっといい人がいるとか、わけのわからないことを言うばかりで……。彰さん、優しいから嫌いになったとか、ほかに好きな人ができたとか、私が傷つくことが言えなかったんだと思う」

「そう……」

元カレの圭太も、私以外の人と付き合っていたことを内緒にしていた……。

でも相手を傷つけたくないからといって、事実をきちんと説明しないことが優しさなの?

圭太と笠原さんが重なって見えて、胸がチクリと痛んだ。

「彰さんと別れて一週間が経ったとき、速水さんから交際を申し込まれたの。卑怯だけど私、彰さんを早く忘れたくて……速水さんとお付き合いすることに決めたわ。でも、やっぱり彰さんのことが忘れられなかった……。そんな日々を過ごしていたら、彰さんの子を妊娠していることに気がついたの。速水さんには本当に申し訳なく思っている」

運命の相手は速水副社長ではなく、笠原さん。お姉ちゃんはそう言いたいのだろう。でもそれは、都合のいい言い訳。

お姉ちゃんが速水副社長に対してどんなにひどい仕打ちをしたのか知らしめるために、私は現実を突きつけた。

「お姉ちゃんは、副社長を裏切ったんだよ」

「……ええ。そうね」

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