恋は理屈じゃない
本当は汚い言葉を使ってお姉ちゃんを責め立てたい。しかし、そんなことをしても一時的に鬱憤(うっぷん)が晴れるだけで、なんの解決にもならない。
込み上げてくる怒りを堪えながら、冷静に話を続けた。
「笠原さんのことを忘れられないと気づいた時点で、副社長と別れようとは思わなかったの?」
お姉ちゃんが瞳を伏せると、大粒の涙がポトリと落ちる。
「もちろんすぐにそうしようと思ったわ。でも彰さんへの思いを断ち切って、速水さんとお付き合いを続けて結婚すれば、フローリスト須藤の将来は安泰だと思ったのよ」
お姉ちゃんは笠原さんへの未練に苦しみ、速水副社長との交際に悩んだ。そしてフローリスト須藤の将来を考え、赤ちゃんを授かったことを喜び、同時に不安を感じた。
誰にも相談できずにひとりで苦悩を抱えていたお姉ちゃんの心情を思うと胸が痛み、もうこれ以上責めることなどできなかった。
「赤ちゃんを授かったこと、笠原さんに伝えたの?」
お姉ちゃんの首が左右に動く。
「どうして?」
「……彰さんと連絡が取れないの」
「えっ?」
「電話も繋がらないし、メールも届かない……。私、避けられているのかもしれない」
笠原さんがすでにほかの女性と交際しているのなら、元カノであるお姉ちゃんからの連絡なんか無視するかもしれない。