恋は理屈じゃない
「副社長を裏切ったお姉ちゃんのことなんか……知りません」
嫉妬にまみれた顔を見られたくなくて、速水副社長から視線を逸らす。そんな私の顎に、彼の指先が触れた。
「姉妹ケンカはよくないな。これはお仕置きが必要か?」
速水副社長の指先に力がこもり、顔が上向く。
「お仕置きって……」
至近距離の速水副社長を意識しすぎたせいで、恥ずかしい妄想をしてしまった。
「顔が真っ赤だな。いったいどんなことを想像したんだ?」
「えっ? そ、それは……」
『お仕置き』という言葉を聞いた私の目に映ったのは、速水副社長の胸もとのネクタイ。そのネクタイで両手を縛られたり、目隠しされたりすることを想像しました、なんて、口が裂けても言えないよ……。
ますます顔が熱く感じてきた私の耳もとで、速水副社長が色っぽくささやいた。
「さあ、どんなお仕置きをしてもらいたいのか白状するんだ」
速水副社長の吐息が耳にかかり、くすぐったい。
「も、もうっ! からかわないでください」
両手を速水副社長の胸にあてると力を込めて押す。その反動で彼の足が数歩後退し、私たちの間に距離ができた。
「ようやく、いつもの鞠花ちゃんらしくなったな」
三十センチ先にいる速水副社長が、クスクスと笑う。