恋は理屈じゃない
「いつもの私?」
「ああ。元気で明るくてかわいい鞠花ちゃんだ」
「……」
私って、速水副社長にそんな風に思われているんだ。なんだか恥ずかしい……。
ますます赤くなったと思われる顔を隠すために、うつむいた。
「鞠花ちゃん、蘭の様子を教えてくれないか?」
けれどお姉ちゃんのことを心配する速水副社長の言葉を聞き、火照っていた頬が瞬く間に冷えていく。それでも彼の質問を無視することができなくて、渋々と口を開いた。
「……お姉ちゃん、つわりがひどいみたいで、夜中に何度もお手洗いに駆け込んでいました」
「そうか」
速水副社長の顔が苦痛に歪む。
辛そうな表情を浮かべる彼の姿なんて見たくない。
速水副社長から視線と逸らすと、唇を噛みしめた。
「鞠花ちゃん、ちょっと今から付き合ってくれないか? 続きは移動した先で話そう」
「あ、はい」
唐突な誘いに戸惑いながらも足を進める速水副社長の後を追い、通用口から外に出た。駐車場を横切って大通りに面した道路に出ると、空車のタクシーを停めて乗り込む。
「東京プラチナガーデンまで」
「はい」
速水副社長はタクシーの運転手さんに行き先を告げると、後部座席のシートに深くもたれかかった。