恋は理屈じゃない
東京プラチナガーデンとは、美術館や映画館、ショップなどが集合した商業複合施設の名前。
「鞠花ちゃんはカクテルなら、酔わないか?」
速水副社長の言葉で、これからお酒を飲みに行くことがわかった。
「たくさん飲まなければ大丈夫だと思いますけど」
「そうか、今日は酔いたい気分なんだ。だから俺より先に酔い潰れないでくれると助かる」
この前、純米酒を飲みすぎて記憶を失くした痛い経験をチクリと指摘されてしまう。
「わかりました。副社長が酔っ払って綺麗なお姉さんを口説かないように、私が見張ってあげますから安心してください」
精一杯の反論をしてみると、隣にいる速水副社長の口角が上がった。
「俺はそんな下品な酔い方はしない」
「ふーん。そうですか」
「ちなみに誰かさんみたいに、記憶をなくすまで酔ったこともない」
「飲め飲めって、お酒を勧めたのは副社長なのに……」
速水副社長には、無事に家まで送り届けてくれた負い目がある。大きな声で反論できない私は、ひとり愚痴った。
「ん? なんか言ったか?」
「……いいえ。なにも」
小さく頬を膨らましていると、頭の上に速水副社長の手が乗る。
「少し鞠花ちゃんをからかいすぎたみたいだ。悪かったな」
「い、いいえ」
頭の上でポンポンと跳ねる速水副社長の手が、以前よりも元気がないような気がして寂しかった。