恋は理屈じゃない
少しだけ落ち込んでいると、速水副社長が柔らかい笑みを浮かべた。
「ベリーニは鞠花ちゃんみたいなカクテルだ」
「私みたい?」
「ああ、純粋で可憐。そんな感じだ」
「……」
なんだか、速水副社長の言葉が甘すぎるから恥ずかしくなってしまう。照れながらうつむくと「お待たせいたしました」という声と共にグラスが運ばれてきた。
私の前には背の高いシャンパングラスが、速水副社長の前には逆三角形のカクテルグラスが置かれる。
こんなに鮮やかなピンク色をしたカクテルを私みたいだと言ってくれて、うれしいな……。
「鞠花ちゃん、乾杯しようか」
「はい」
グラスを手に取ると、カチンと合わせる。
「乾杯」
「乾杯」
ベリーニをひと口味わうと速水副社長の言う通り、爽やかな甘みが喉を通り過ぎていった。
「おいしい」
「そうだろ。でもあまり飲みすぎるなよ」
「はい」
まだベリーニをひと口しか味わっていないのに、酔ったように心臓がドキドキと音を立てる。
なんだろう、この感じ……。
急に湧き上がってきた説明できない気持ちに戸惑った。
「蘭の子供のことだが……父親が誰なのか、鞠花ちゃんは知っているのか?」
いきなり触れてほしくない話題になり、焦りつつも平静を装う。
「い、いいえ。知りません」
気まずい思いを感じながら、ぎこちなく首を左右に振ると咄嗟に視線を逸した。嘘をついてしまい、チクリと胸が痛み出す。