恋は理屈じゃない
でも、仕方ない。だって、これ以上、傷ついてほしくないんだもん……。
心の中で言い訳をしていると、速水副社長が鼻先で笑った。
「嘘をつくのがヘタだな」
「えっ?」
速水副社長の意外な言葉に驚いて顔を向けると、視線が絡み合う。
「鞠花ちゃんは、父親が誰なのか知っている。そうだろ?」
「……」
鋭い指摘に返す言葉が見つからず、黙り込むことしかできなかった。速水副社長はマティーニを飲み干すとお代わりをオーダーする。
「蘭を責めるつもりはないんだ。俺は事実が知りたい。ただそれだけだ」
「……」
速水副社長を傷つけるのが怖くて父親のことは内緒にすると、お姉ちゃんと約束をした。けれどそれは彼の気持ちを確認することなく、私たちが勝手に決めたこと。
速水副社長が事実を知りたいと望んでいるのなら、応えるのが正しいのかもしれない。
無言のまま考えを巡らせていると、速水副社長がお代わりをしたマティーニがテーブルの上に置かれた。しかし彼はマティーニには口をつけずに、私の顔を覗き込んでくる。
「父親は笠原だろ?」
「副社長、なんでそのことを知っているんですかっ!?」
まさかのひと言に驚き、思わず大きな声をあげてしまった。跳ね上がった鼓動を落ち着かせるために胸に手をあてると、速水副社長がフッと息を吐き出す。
「やっぱりそうか。鞠花ちゃんは相変わらず単純だな」