恋は理屈じゃない

私から視線を逸らし、窓際のカウンター席から東京の夜景を眺めて苦笑いをする速水副社長の横顔を見てようやく気づく。

「騙したんですね」

「言っただろ? 俺は事実を知りたいと……」

「……」

グランディオグループの副社長である彼は多くの人と対話を交わし、説得と納得を重ね、交渉に結びつける毎日を過ごしている。そんな話術に優れている彼にとって、十二も年下の私にカマをかけて事実を引き出すことなんか赤子の手をひねるようなものだったはずだ。

すべてを知った速水副社長はマティーニを一気に喉に流し込むと、追加オーダーをした。

「俺は笠原を信頼していた。それは仕事面だけでなくプライベートも含めてだ。だから蘭に交際を申し込もうと思っていると、笠原に打ち明けた。その頃から笠原の様子が変わったんだ。表情が暗くなり、口数も減った。悩みがあるなら相談にのると言っても無理に笑みを浮かべるだけだった」

速水副社長が話を一旦区切ると、マティーニが運ばれてきた。彼はそれをひと口味わうと、話を続けた。

「笠原のことを気にしつつも、俺は蘭に交際を申し込み付き合い始めた。そんな矢先、笠原が突然姿を消し、そして蘭の妊娠が発覚した。だから俺は笠原と蘭の間になにかあるんじゃないかと疑った」

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