恋は理屈じゃない
「俺は真剣に付き合っていた蘭に裏切られたんだ。悪いが今はまだ、蘭の結婚を手助けしてやろうと思える余裕はない」
速水副社長の意見はもっともで、浅はかなお願いをしてしまったことを後悔した。
「そ、そうですよね。勝手なことを言ってすみませんでした」
頭を下げて謝ると、速水副社長がポツリと呟く。
「もし……笠原の行方がずっとわからなかったら……蘭は未婚の母になるのか?」
歯切れが悪い速水副社長なんて珍しい……。
「お姉ちゃんは、ひとりで産んで育てると言っています。でもそれじゃあ、お姉ちゃんと産まれてくる赤ちゃんがかわいそうで……」
お姉ちゃんは強がっているけれど、きっとひとりで心細い思いをしているはず。
笠原さんの行方を知るには、どうしたらいいんだろう……。
頭を悩ませていると、速水副社長が顔を近づけてくる。
「鞠花ちゃんは、お姉さん思いで優しいな」
「だって、世界にたったひとりしかいないお姉ちゃんだもん。幸せになってほしいんです」
「……そうだな」
「はい」
私を見つめる速水副社長の眼差しがとろけるように甘くて優しいのは、マティーニを飲みすぎたせい?
鼓動がトクンと音を立てる。
近すぎる距離を恥ずかしく思いながら、速水副社長が私みたいだと言ってくれたベリーニに口をつけた。