恋は理屈じゃない
ひとりにしないでくれ
「副社長、ごちそうさまでした」
「いや。俺の方こそ、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いいえ。副社長とたくさんお話ができてうれしかったです」
話題の多くはお姉ちゃんと笠原さんのことだったけれど、ナンバーの交換もしたし、速水副社長との距離が少し縮まったような気がして満足な時間となった。
「俺も楽しかった。また付き合ってくれ」
「はい。ぜひ」
速水副社長が言った『また』がいつになるのかはわからない。それでも『また』の約束ができたことがうれしかった。
東京プラチナガーデンを出ると、駅前のタクシー乗り場に向かう。すると、思わぬハプニングに見舞われた。
歩道を行く人の肩が速水副社長にぶつかり、その大きな身体がグラリと傾く。
「危ない!」
咄嗟に両手を出して速水副社長の身体を抱きかかえた。
「すまない」
ひっくり返らずに速水副社長の身体を受け止めることができ、ホッと胸をなで下ろす。
「マティーニの飲みすぎです」
「そうだな……でも飲まずにはいられなかったんだ」
私にもたれながら弱音を吐き出す速水副社長が意外で、無性にかわいらしい。
「今日は私が副社長を送ります。家ってどこですか?」
「俺の家はあそこだ」
「えっ?」
速水副社長は私から離れるとフラフラと足を進める。その先には超高層マンションが見えた。