恋は理屈じゃない
こんな高級タワーマンションに住んでいるなんて、すごい。気さくに話しかけてくれるから、つい忘れてしまいがちだけれど、彼はグランディオグループの副社長なんだよね……。
改めて立場の違いを感じていると、速水副社長がロックを解除してマンションに入って行く。
「あっ、待ってください!」
足もとがふらついて危なかしい速水副社長に駆け寄ると、また身体を支えた。
「悪いな」
「いいえ。この前のお返しです」
「そうか」
「はい」
たしかに酔っているみたいだけど、受け答えはきちんとしている。ホッとしながらエントランスを通ってエレベーターに乗り込むと、扉が閉まった。
「このマンションには家族の人と住んでいるんですか?」
「いや。俺ひとりだ」
「そうですか」
「ああ」
少しの会話を交わしていると、エレベーターはあっという間に最上階に到着する。速水副社長はエレベーターから降りると、玄関ドアを開けて明かりを点けた。
ここまで来れば、もう大丈夫だよね。
「副社長、私これで帰りま……えっ!?」
驚いてしまったのは、速水副社長が靴も脱がずにその場に倒れ込んだから。
「副社長! 起きてください!」
「ん……」
大きな声で呼びかけると、閉じていた速水副社長の瞳が開いた。