恋は理屈じゃない
「副社長、こんなところで眠ったら風邪をひきますよ。ほら、立ってください」
「……ああ」
速水副社長の足から靴を剥ぎ取ると、両手を掴んで立ち上がらせる。
「寝室はどこですか?」
「……左の奥の部屋だ」
「そうですか。じゃあ、ほら。私に掴まってください」
パンプスを脱いで家に上がると、速水副社長の身体を支えながら廊下を進む。意識はあるものの、かなり酔っている彼を支えて歩くのは、思っていた以上に大変なことだった。
何度も転びそうになるし、額には薄っすらと汗が滲み出す。それでも少しずつ足を進めると、左の奥のドアを開けて部屋の中に入った。すると速水副社長が、なだれ込むようにベッドの上に倒れる。
「キャッ!」
その勢いに巻き込まれ、気づいた時にはベッドの上で仰向けになっていた。ハッとして隣を見れば、唇が触れそうな距離に速水副社長の顔が迫っている。
嘘でしょ!
あり得ない状況を目のあたりにして、頭が混乱してしまった。急いでベッドから立ち上がると、足を後退させて速水副社長から距離を取る。
酔っ払った速水副社長が心配だからといって、夜中に、しかもひとり暮らしをしている男の人の部屋に上がり込むなんて無用心だったかも……。