恋は理屈じゃない

「は? そんなわけないだろう。こんな格好なのは、たった今シャワーを浴びたからだ」

「と、とにかく早く服を着てください!」

私の父親は娘の前で、裸になんかならない……。

程よく鍛えられた上半身を惜しげもなく晒している速水副社長に、猛抗議する。けれど彼は、眉をひそめると迷惑そうな表情を浮かべた。

「ここは俺の部屋だ。主がどんな格好をしようと勝手だろ」

「……はうっ!」

速水副社長が言ったことは正論で、言い返す言葉が見つからない。悔しげに唇を噛みしめていると、彼の口もとがニヤリと上がった。

「一度はこの胸に抱かれたくせに、今さら恥ずかしがるな」

記憶にはないけれど、あの逞しい胸と腕に抱えられたんだよね……。

酔っ払って意識を失くして速水副社長にお姫様抱っこされたという事実を思い出した途端、頬に熱が集まり出す。

「い、いやらしい言い方しないでください」

ベッドの上で膝を抱えながら小さく反論すると、速水副社長がクスッと笑った。

「鞠花ちゃんの反応がおもしろいから、ついな。ほら、顔が真っ赤だぞ」

「……っ!」

言葉に詰まっていると、速水副社長は寝室と繋がっているウォークインクローゼットに姿を消した。

もう嫌だ……。

朝から速水副社長にからかわれたことが、悔しくて情けない。火照った顔をこれ以上見られたら、また意地悪なことを言われちゃう。

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