恋は理屈じゃない
膝の上に額をつけると顔を隠した。するとウォークインクローゼットから信じられない言葉が聞こえてきた。
「ところで、どうして鞠花ちゃんが俺の家にいるんだ?」
「えっ?」
速水副社長の言葉に驚き、勢いよく顔を上げる。すると着替えを済ませ、ウォークインクローゼットから出てきた彼と視線が合った。
「なんだかすごく柔らかい抱き枕だなと思って目が覚めたら、鞠花ちゃんを抱いて眠っていたらしくてな。そもそもこの家に抱き枕なんてないから、おかしいとは思ったんだが……」
「……っ!」
だ、だ、抱き枕って……私、速水副社長に抱きしめられて眠っていたってこと?
まさかの事態に慌てふためく。
「まあ、それは冗談だが、どうして鞠花ちゃんがこの家にいるのか理由を教えてくれないか」
もう速水副社長が言っていることのどれが本当でどれが冗談なのか、ちっともわからない。
「どこから覚えていないんですか?」
「東京プラチナガーデンを出てからの記憶がないんだ。どうやって家に帰ったのかも覚えていない」
「そうですか……」
ワイシャツとスラックス姿の速水副社長は、人差し指で鼻先をポリポリと掻いて照れを見せる。
人と肩がぶつかったってよろけたのも、玄関で寝そうになったことも、そして涙を浮かべて『ひとりにしないでくれ……』と言ったことも、全部覚えていないなんて嘘でしょ?
唖然としながら速水副社長を見つめた。