恋は理屈じゃない
「鞠花ちゃん、家まで送る。朝食も用意できずにすまないな」
妊娠初期のお姉ちゃんに重い水の取り換えや、長時間の立ち仕事はあまりさせたくない。だから休みを返上して月曜日の午後はお姉ちゃんに代わって、私が勤務することになっている。
早く家に戻って、身支度を整えたい。
「いえ。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。その前にお手洗いを借りてもいいですか?」
「ああ、もちろん」
ベッドから立ち上がるとカットソーのトップスとスカートの乱れを直す。そしてバッグを手にして寝室を出ると、速水副社長がトイレの場所を案内してくれた。
「隣の洗面所も好きに使ってくれて構わない。女の子は色々と準備があるだろ?」
「ありがとうございます」
「ああ」
速水副社長は柔らかく微笑むと、寝室に戻って行った。
トイレから出ると、彼に言われた通り洗面所を借りる。
うわぁ、綺麗……。
白で統一された広い洗面所は一滴の水はねもなく、鏡もピカピカに磨き上げられていた。
速水副社長って潔癖症?
周りを汚さないように気をつけながら、手と顔を洗う。
今さらだけど、私、寝起き姿を速水副社長に晒しちゃったんだよね……。
鏡に映し出されたほぼスッピンの自分の顔を恥ずかしく思いつつ、乱れた髪の毛を手ぐしで整える。そして速水副社長をあまり待たせるのも悪いと思い、軽くメイクを直すと急いで洗面所を後にした。