恋は理屈じゃない
「副社長、ありがとうございました」
すでに玄関で靴を履き、スマートフォンをいじっている速水副社長にお礼を言う。
「いや。下にタクシーを待たせてある。行こうか」
「はい」
パンプスを履くと速水副社長と玄関を出た。エレベーターに乗り込むと扉が閉まる。
「洗面所、すごく綺麗ですね。副社長って忙しいのに、いつ掃除しているんですか?」
「週に二回、家事代行業社に来てもらっている」
「あ、なるほど」
ホテルのように綺麗な洗面所の理由がわかり、納得する。
「実はひとり暮らしを始めてすぐに、家がゴミ屋敷のようになったんだ。それから家事代行業社に来てもらっているんだ」
「ゴ、ゴミ屋敷……」
仕事もプライベートもしっかりしていそうな速水副社長の意外な過去に若干引いていると、エレベーターが一階に到着した。
「家事全般が苦手な俺の嫁になる人は、苦労かけるかもしれないな」
「そうですねぇ」
頭の中に浮かぶのは白いエプロンを身に着けて、速水副社長の部屋を掃除している自分の姿。そして「ただいま」の声を聞いて玄関に向かうと、仕事帰りの彼から鞄を受け取る。「おかえりなさい」と挨拶を交わすと頬に甘いくちづけが落とされ、それから……。