恋は理屈じゃない
「鞠花ちゃん!」
エレベーターから降りたところで立ち止まっていた私は、自分の名を呼ぶ速水副社長の声を聞いて我に返る。
「す、すみません」
なんだったんだろう、今の妄想……。
自分が速水副社長の花嫁さんになっているシチュエーションを思い返しては、頭をひねる。
そんな中、エントランスホールの出入り口にいる彼のもとに急いで駆け寄ると、マンションを後にした。待機していたタクシーに乗り込むと、速水副社長が私の家の住所をタクシーの運転手さんに伝える。
「鞠花ちゃん。出張中に連絡してもいいか?」
「は、はい! もちろんです!」
これじゃあ仕事の時も食事の時も、それからお風呂に入っている時だって、スマートフォンを手放せないな……。
速水副社長との約束がうれしくて気分が高ぶる。しかし、それも束の間。彼の口から飛び出した言葉に衝撃を受けた。
「あ、それから蘭のこと……気遣ってあげてくれ」
速水副社長が私に連絡をくれる本当の理由は、お姉ちゃんとの繋がりを断ちたくないから。まだ未練を引きずっているんだ……。
でも速水副社長がお姉ちゃんのことを気にするたびに、胸が苦しくなるのはどうしてなのかな。
その理由がわからないまま「はい」と返事をした。