恋は理屈じゃない
こうなったら、出張から帰ってきた速水副社長を驚かせてやるんだから……。
「私、ダイエットします! 今度会う時はモデルさんみたいにスリムになっていますから楽しみにしていてください!」
声高々に宣言をすると、速水副社長の声のトーンが下がる。
「鞠花ちゃん。女の子は少しぽっちゃりしている方がかわいいと言っただろ。だからダイエットなんて絶対にするんじゃない。いいな?」
「だって、副社長がデブだって言うから!」
速水副社長は少しでも細くありたいという女の子の気持ちをちっともわかっていない。ムキになって反論すると、弱々しい声が耳に届いた。
「悪かった。ごめん」
意地悪な速水副社長から一転、素直に謝る彼の声は小さくてかわいい。
「もう私のことデブって言わないって約束してくれますか?」
「約束する」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
速水副社長の言葉を信じよう。それにダイエットしても短期間でモデル体型になれる自信もない。
「今度私のことデブって言ったら、お仕置きしますからね」
念のためにもう一度釘を刺す。
「鞠花ちゃんのお仕置きか……。どんなことをされるのか、それはそれで気になるな」
スマートフォン越しの速水副社長の姿は私には見えない。けれど口もとをニヤリと上げて意地悪く微笑む速水副社長の表情が、頭の中に容易く浮かんだ。
「……気にしないでください」
「いや、気になる」
「……」
ああ、もう。変なこと言うんじゃなかった……。
そんなことを思いつつ、速水副社長との三日ぶりの会話を楽しんだのだった。