恋は理屈じゃない
急に花嫁役をやることになって戸惑っていた気持ちが、徐々に期待へと変化していく。
「さあ、お嬢様、こちらに」
「はい」
案内に従ってスツールに腰を下ろすと、ひとつに束ねていた髪の毛が解ける。そしてすぐに、ヘアメイクが始まった。その間にも、キラキラと輝くスワロフスキーのネックレスとイヤリングがつけられる。女性スタッフの手際のよさに感心していると、アップした髪の上にティアラが乗った。
「お嬢様、お立ちいただけますか」
「はい」
「失礼します」
「は、はい」
羽織っていたガウンを脱がされると、ウエディングドレスを膨らませるために、チュール生地が何層にも重なったパニエと、太もも丈のニーハイストッキングを身に着ける。次はいよいよウエディングドレスだ。
緊張感と高揚感に包まれながら、生まれて初めてのウエディングドレスに袖を通すと背中のファスナーがジジジッと上がる。そして用意されたブライダルシューズに足を忍ばせると、私を取り囲んでいた従業員がスッと離れた。
「お嬢様、鏡の前へどうぞ」
「あ、はい」
忙しく動き回る四人の従業員に常に囲まれていたせいで、自分の姿を鏡で一度も見ていない。
いったい、どんな風になっているんだろう……。
ドレスに手を添えて鏡の前にゆっくり移動すると、そっと視線を上げた。