恋は理屈じゃない
それから速水副社長とは、何度かメールを送り合った。内容はお姉ちゃんの様子と、速水副社長の出張のこと。
忙しい中、連絡をしてくれるのはうれしい。けれど、やっぱり声が聞きたいな……。
そんなことをぼんやりと考えていると、スマートフォンが音を立てた。
ホテル・グランディオ東京内の店舗の作業場でブーケを作っていた手を止めると、エプロンのポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。着信相手は、声を聞きたいと願っていた速水副社長だった。
「もしもし」
「俺だ。今なにをしている?」
「今ですか? 今は依頼があったブーケを作っていますけど……」
「そうか。仕事の邪魔をして悪かった。後でかけ直す」
速水副社長からの連絡をずっと心待ちにしていたのに……。
「あっ、副社長、切らないで!」
焦りながら声をあげた私の耳に聞こえたのは、通話が終わったツーツーという音ではなく、速水副社長の声。
「大丈夫なのか?」
「はい。あと少しで完成ですから」
速水副社長と話を続けられることをうれしく思いながら答えた。
「鞠花ちゃんが作っているのは、どんなブーケなんだ?」
「ダリアのブーケなんです」
「ダリア?」
「はい。ダリアは夏から秋にかけて咲く花で、色と品種が豊富なんです。花言葉は優雅、華麗です」
「……」
ダリアの説明をすると、しばらくの間、沈黙が流れた。
「あの、副社長?」
「ああ、すまない。花には詳しくなくてな。そうだ、今度鞠花ちゃんに花について教えてもらおう」
「え?」
まさかの申し出に驚く。