恋は理屈じゃない

「グランディオグループの副社長である俺が、ブーケや装花のことをあまり知らないのも、示しがつかないだろ」

速水副社長がブライダルフラワーコーディネーターの私の仕事について興味を持ってくれたことがうれしい。

「いいですよ。花の特徴から花言葉まで、みっちりとしごいてあげますから覚悟していてくださいね」

花に関しては、速水副社長より私の方が絶対に詳しい。自慢げに胸を張ると、彼がポツリと呟いた。

「……意外とSなんだな」

「はい?」

私のどこがどう“S”なのか、わからない。

「いや、なんでもない。……あ、そうだ。鞠花ちゃんは遊園地好きか?」

速水副社長は“S”に関してはスルーしたまま、何故か遊園地の話題を口にした。

「はい、好きですけど……」

「そうか。実は取引先から遊園地のチケットをもらったんだ。よかったら友だちを誘って行ってくれ」

突然飛び出した遊園地の話題に心が躍る。『友だち』と言われて真っ先に思い出すのは琴美だ。

「ありがとうございます。ちょうど明日、高校時代からの友だちの琴美と会う約束をしているから聞いてみます」

「ああ、そうしてくれ。じゃあまたな」

「はい。また」

通話を終わらせると、速水副社長との会話の余韻にしばらく浸る。そして途中だったブーケを手にすると、作業を再開しようとした。でも、ふとあることに気づく。

そういえば今日は、お姉ちゃんの様子を聞かれなかったな。特に変わったこともないから、まあいいか。

そんなことを思いながら、ブーケの仕上げに取りかかった。

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