恋は理屈じゃない
「鞠花さ、副社長と会えない日は寂しい?」
「う、うん。寂しい」
今、速水副社長は出張中。彼からコールがないかと四六時中スマートフォンを気にする日々を過ごしているのは、声だけでも聞きたいと思っているから。
「じゃあ、もし副社長が鞠花以外の人と結婚しても祝福できる?」
琴美の言葉を受けた私の頭に浮かんだのは、夏のブライダルフェアで白いタキシードを着た速水副社長の姿。
パイプオルガンの音色が響く中、チャペルのヴァージンロードを進む速水副社長と妻になる女性を、私は参列席から見守って祝福するの?
そんなこと……絶対に嫌だ……。
首を思い切り左右に振って、琴美の問いかけを全力で否定した。
「ほら。鞠花は副社長のことが好きなんじゃない」
微笑みながら言われた琴美の言葉を素直に受け入れられたのは、心あたりがあったから。
意地悪されても嫌いにならないのも、距離を縮められると胸がトクンと音を立てて頬が熱くなるのも、彼のことが好きだからなんだ。
そっか、私、速水副社長に恋しているんだ……。
自分の思いに気づいた途端、鼓動が早鐘を打ち始める。けれど同時に、灰色の雲のようにモヤモヤした気持ちが心の中で渦を巻いた。