恋は理屈じゃない
「でも副社長は、お姉ちゃんの元カレなんだよ」
義理の兄になる予定だった人を好きになるなんて、道理に外れているんじゃないのかな……。
不安が大きく膨らんでいく。
そんな臆病風に吹かれて声が小さくなってしまった私を見た琴美は、チチを飲み干すと満面の笑みを浮かべた。
「お姉さんが副社長の“今カノ“だったら問題だけど、”元カノ“なんだから、なんの問題もないでしょ」
「そういうものなの?」
「そういうものです。それに人を好きになるのって、理屈じゃないでしょ」
「……そうかもね」
笠原さんとお姉ちゃん、そして速水副社長に私。それぞれの思いに揺れ動いている私たちの恋は、たしかに理屈じゃ説明できない……。
しかし付き合いの長い琴美に明るく励まされるように言われると、前向きになれるから不思議だ。
「私、一緒に遊園地に行ってもらえないか副社長に聞いてみる」
「うん。そうしな。鞠花の新しい恋、応援するからね」
「琴美、ありがとう」
モヤモヤした思いが晴れた私は、琴美に続いてチチを飲み干す。そして新しい恋に喜びを感じながら、二杯目のチチをオーダーした。