恋は理屈じゃない
デートのお誘い
金曜日の夜、お風呂から出るとベッドの上で正座をする。これから速水副社長に電話すると思うと、緊張で手が震え始めた。
時刻は午後十時。この時間なら、もう仕事も終わっているよね……。
高ぶっている気分を落ち着かせるために、大きく深呼吸をするとスマートフォンを手にする。そして速水副社長のナンバーを表示させると、通話ボタンをエイッと押した。
鼓動がドキドキと高鳴る音と、呼び出し音がリンクする。
このまま呼び出し音がずっと続いたら、心臓がもたないよ……。
そう思った時、速水副社長の低い声がスマートフォン越しに聞こえた。
「もしもし、鞠花ちゃんか?」
「は、はい。突然ごめんなさい。今、大丈夫ですか?」
速水副社長のことを好きだと自覚してから初めて聞く彼の声は、うれしくて恥ずかしい。
「ああ。仕事もひと段落して、ビールを飲もうと思っていたところだ」
「そうなんですか。あまり飲みすぎないでくださいね」
「そうだな。それで鞠花ちゃんの要件は?」
出張先の天気はどうなのかとか、今日の夜ご飯はなにを食べたのかとか、もっと速水副社長と話をしたかったのに……。
せっかちに要件を聞き出そうとする速水副社長にがっかりしながらも、本題を切り出す。
「遊園地のことなんですけど、やっぱり琴美とは都合が合わなくて」
「そうか、それは残念だな」
嘘をついたわけじゃないのに真剣に話を聞いてくれる速水副社長に、なんとなく後ろめたさを感じてしまう。