恋は理屈じゃない
「はい。それでお願いがあるんですけど……副社長と一緒に遊園地に行けたらうれしいなって思って……」
「俺と?」
「はい。ダメ、ですか?」
緊張で声を震わせながらも、自分の思いを伝える。
どうか、速水副社長が私の願いを聞き入れてくれますように……。
神様に運命をゆだねた。
「ダメというか、仕事がな……」
少しだけ期待していた気持ちが、瞬く間に音を立てて崩れていく。
「そ、そうですよね。無理言ってすみませんでした」
速水副社長にとって私は特別な存在ではない。
図々しいお願いをしてしまったことを恥ずかしく思った。しかし、わずかな沈黙の後に聞こえてきた、速水副社長の言葉に耳を疑う。
「鞠花ちゃん、来週の水曜日の夕方なら都合がつきそうだ。それでもよかったら一緒に遊園地に行くか?」
「え? いいんですか?」
「ああ、たまには気分転換も必要だ」
まさかの展開に驚き、落ち込んでいた気分が上がった。
「水曜日の夕方、大丈夫です。すっごく楽しみ!」
「そうか。それはよかった。詳しいことはまた連絡する。俺もデートを楽しみにしている。じゃあな」
「はい」
通話を終わらせるとベッドに寝転がり、しばらくボーと放心してしまった。
私、速水副社長とデートするんだ……。夢じゃないよね?
徐々に現実味が帯びてくると、鼓動が早鐘を打ち始める。
どうしよう、なに着て行こうかな……。
私の頭の中は、すでに遊園地デートのことでいっぱい。
ベッドの上から跳ね起きるとクローゼットを漁り、夜遅くまでコーディネートに頭を悩ませたのだった。