恋は理屈じゃない
「えっ? これが私?」
鏡に映し出されたのは、童話に出てくるお姫様のような自分の姿。驚きつつも、口もとが自然に緩んでしまう。
「はい。お嬢様、とてもお美しいですわ」
「あ、ありがとうございます」
お世辞だとわかっていても、今まで一度も言われたことのない褒め言葉がうれしい。
「さあ、これを」
「はい」
目の前に差し出されたのは、白いアマリリスと淡いピンクのクレマチスのオーバルブーケ。楕円形のとても華やかなブーケだ。ちなみに、このブーケを作ったのは私。結婚披露宴会場の装花作業だけでなく、ブーケ作りも請け負っている。
純白のウエディングドレスに煌びやかなアクセサリーとティアラが、ブライズルームの天井まで届く大きな窓から降り注ぐ日差しを受けてキラリと光を放つ。
私じゃないみたい……。
プロの手によって素敵な花嫁に変身した自分の姿をうっとりと見つめていると、介添え役の女性に手を取られる。
「さあ、参りましょう」
「えっ、あ、はい」
そうだった。私の役目はウエディングドレスを着ることだけではない。これから執り行われるブライダルフェアの模擬挙式で花嫁役を無事に務めることだ。
生まれて初めて着たウエディングドレスに浮かれていた気持ちが、一瞬のうちに凍りつく。
失敗したら、どうしよう……。
再び現れた不安という感情を胸に抱きつつ、介添え役の誘導に従って模擬挙式が行われるチャペルへと移動した。