恋は理屈じゃない
「副社長、もしかして飛行機も苦手でしょ?」
「……」
「出張の時、いつも東京駅を利用するってことは飛行機が苦手ってことですよね?」
鼻高々に自分の推理を披露する。
「ジェットコースターが苦手というより、高い場所が少し苦手なんだ」
「へえ、そうなんだ。高い場所がねえ。じゃあ今度スカイツリーに行きましょうよ。すっごく高いらしいですよ」
速水副社長にはいつもからかわれてばかりいる。弱っている彼をここぞとばかりに攻めていると、勢いよく鼻をつままれた。
「うるさい、黙れ」
「んっ! ちょっと、やめてくださいよ!」
鼻声になりながら抵抗すると、速水副社長の手が鼻から離れていった。
「俺をからかうとは、いい度胸しているな」
「べ、別にからかったつもりはないですけど……」
いつの間にか顔色もよくなった速水副社長の口もとが不気味に上がる。
「俺はジェットコースターも飛行機も苦手だが、アレは苦手じゃないんだ」
速水副社長はそう言うと、白い着物を着た女性の幽霊の絵が描かれているお化け屋敷を指さした。
私はジェットコースターも飛行機も苦手じゃないけれど、お化け屋敷は苦手……。
「い、嫌です! アレは絶対に嫌っ!」
「問答無用。俺をからかった罰だ。さあ行くぞ」
ベンチから立ち上がった速水副社長に、手首を掴まれる。
「いやぁ~!」
必死の抵抗も虚しく、遊園地には私の絶叫が響き渡ったのだった。