恋は理屈じゃない
速水副社長に支えられながらお化け屋敷を出る。ベンチに腰を下ろしてグッタリとしていると、隣に座った彼の腕がスッと伸びてきた。
「怖い思いをさせて悪かったな」
速水副社長の手が頭の上に乗り、ポンポンと跳ねる。
「そ、そうですよ。だから嫌だって言ったのに……」
「あそこまで怖がるとは、予想外だった」
速水副社長の言葉を聞いて思い出すのは、お化け屋敷での出来事。私は恐怖のあまり悲鳴をあげて、彼の腕に何度もしがみついてしまったのだ。
「迷惑かけて、すみませんでした」
「いや、お姫様を守るナイトの気分を味わえて楽しかった」
「お姫様って……」
私のことをお姫様にたとえてくれたことがうれしい……。
お化け屋敷での恐怖も薄れて口もとを緩ませていると、速水副社長がクスクスと笑い出した。
「おばけを思い出して、今夜ひとりでトイレに行けないんじゃないのか?」
「トイレくらい、ひとりで行けますからっ」
ついさっきは『お姫様』と言ったくせに、今度は子供扱いするなんて!
頬を膨らませながら速水副社長を軽く睨むと、突然顔を覗き込まれる。
「そろそろ落ち着いたか?」
「……はい」
口では意地悪なことを言うくせに、私を見つめる速水副社長の表情には柔らかい笑みが浮かんでいる。彼のことを急に意識してしまった私の心拍が、一気に跳ね上がった。
速水副社長を好きだという気持ちが胸いっぱいに広がって、目を合わせるのも恥ずかしい……。