恋は理屈じゃない
堪え切れずにうつむくと、ベンチから立ち上がった速水副社長が私の目の前に手を差し出した。
「では鞠花姫、参りましょうか」
少しキザなポーズも速水副社長がすると、スマートに見えるから不思議……。
「はい」
その大きな手に自分の手を重ねると、お姫様らしくゆっくりとベンチから立ち上がった。速水副社長と手を繋ぎながら、遊園地を歩く。
「鞠花姫、そろそろ食事にしませんか?」
「はい。喜んで」
まだナイト気分を味わっている速水副社長をおもしろく思いつつ返事をすると、遊園地の時計台に視線を向けた。時刻は午後七時三十分。ちょうどお腹も空いたし、お化け屋敷で声を張りあげたから喉も乾いている。
なにを食べようかな……。
辺りを見回していると、あるフードショップの前で速水副社長の足が止まった。
「鞠花ちゃん、ハンバーガーでもいいか?」
「えっ? ハンバーガーでいいんですか?」
オウム返しのように聞き返すと、速水副社長が苦笑した。
「なんだそれ」
「だって副社長とハンバーガーって……なんか似合わない」
副社長の彼に似合うのは高級料理の数々。片手で食べられるファストフードは似合わない。
「まあ、たしかに普段ハンバーガーは食べないな。でも今日はハンバーガーが食べたいんだ」
そこまで言うのなら反対する理由などないし、そもそも遊園地に高級料理店があるわけない。
「そうですか。もちろん、いいですよ」
「じゃあ、行くか」
「はい」
速水副社長に手を引かれながら、フードショップに移動した。