恋は理屈じゃない
「私が元カレのことを忘れられたのは、新しい恋をしたからです」
「新しい恋?」
速水副社長の眉がピクリと上がる。
「はい。私、元カレ以上に好きだと思える人ができたんです」
「なるほど、新しい恋か……。それでその好きだと思える人っていうのはいったい誰なんだ?」
今度は速水副社長の口もとが、ゆっくりと上がった。
「それは内緒です」
「俺に隠し事をするとは生意気だな」
そんなこと言われても、今この場で速水副社長に告白する勇気なんてない……。
「今はどうしても内緒なんです! 自分の気持ちが抑えきれなくなった時は……きちんと副社長に打ち明けますから」
苦し紛れに言い返すと、速水副社長は腕を組んでうなずいた。
「そうか。まあ、そういうことなら今回は深く追及するのはやめておこう。でも俺に力になれることがあれば遠慮なく言ってくれ」
速水副社長はそう言いながらストローでコーラを吸い込んだ。
速水副社長の言葉は意地悪なのか優しいのか、よくわからない。でも彼のことを密かに思っている私の気持ちにはちっとも気づいていないことだけは、よくわかった。
「鈍感」
自分だけにしか聞こえない声で、ポツリと毒を吐く。
「なにか言ったか?」
「いいえ、別に」
「そうか?」
「はい」
速水副社長への気持ちが抑えきれなくなる時がくるのは、いったいいつなんだろう……。
そんなことを考えながら、食べかけのハンバーガーを口に運んだ。