恋は理屈じゃない
目的地である東京プラチナガーデンに到着すると、今月末に迫ったハロウィングッツを取り揃えて賑わっているお店には見向きもせずにメンズフロアに急ぐ。
お礼として贈っても、速水副社長が負担に感じないものってなんだろう……。
お財布にパスケース、手帳にボールペン。どれも素敵だけれど、いまいちピンとこない。アレコレと視線を彷徨わせていると、棚の上にズラリと並んだネクタイが目に入った。
速水副社長は、ほぼ毎日スーツを着ている。だから、ネクタイなら何本持っていても困らないよね。
速水副社長に似合うのは情熱的な印象がする赤かな。それとも陽だまりのような癒しを感じる黄色? あ、爽やかな青も捨てがたいし、クールで知的そうなグレーもいいよね……。
柄は? ストライプにドット、チェックに小紋柄。様々なネクタイを前にしばらく悩む。
そんな中、ふと目に留まった無地の濃紺ネクタイに手を伸ばした。
「いらっしゃいませ。贈り物ですか?」
「はい。無地のネクタイなんて地味ですかね?」
そもそもネクタイを贈ったことなんて、今まで一度もない。濃紺のネクタイを手にしたものの不安を感じて、声をかけてくれた女性店員さんに相談をしてみた。
「そんなことありませんよ。紺無地のネクタイはどんなスーツにも似合いますからおすすすめです」
そうなんだ。
自分のチョイスが的外れではないとわかり、ホッと胸をなで下ろす。
シルク素材で光沢が美しくて手触りもよく、存在を主張しすぎないこのネクタイなら、速水副社長の高級そうなスーツとワイシャツをさらに引き立ててくれるはずだよね……。
「じゃあ、これにします」
「はい、ありがとうございます」
私が選んだネクタイを速水副社長が身に着けている姿を想像しただけで緩んでしまう口もとを引きしめると、会計をするためにレジに向かった。