クラッカーにはご用心
「!!…誰?」


「お巡りさん……」



凶器が頸動脈に触れることはなかった。


何故なら殊犂が刃ごと握り寸前で阻止したからだ。



「何があったかは知らないが、こんなことはするな。」



咄嗟の行動だったようで、息を切らす殊犂の利き手は滴り落ちるほど真っ赤に染まっている。



「人間も貴様達が使う機械も同じだ。無理矢理歯車を動かしたら壊れる。色々あっても頑張って強がらなくていい。立ち止まっても逃げたって構わない。それでいつか前に進んでくれたらいい。死を選ぶぐらいならそうして欲しい。警察官としても俺自身としても、そう思う。」



無理するより戻して直して続きを探して。


そして前に進めても忘れてはいけない、それがあったから今がある事を。



「………………。」



殊犂の言葉に、栲袴は涙を流していた。



大人の言うことは綺麗過ぎて怖く信じられずに、いつの間にか涙を忘れた。


だけど子供の様に泣きじゃくっても良いんだと、栲袴は背中を押された気分だった。



蜜穿の見る目の前のそれは、悲しみに染まった冷たい涙ではなく、愛しさに包まれた温かい涙。


無機質で無色透明なんかじゃなかった。
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