クラッカーにはご用心
「げほげほ、がほ…」



バイトをしていないにも関わらず、日増しに咳が激しくなる。


「がほ…っ……!」



咳き込むと胸に走る痛み。


起き上がれなくて、せっかく殊犂に貰ったものもほとんど手付かずだ。



「は……、はぁ…は…はぁ……」



吐く息が熱い。


顔色が悪いのを儚げと評して無理矢理身体を交わらせたのはランプを光らせた主。



終わりが無いからと行き先を消して、分かるはずが無いと笑顔を拒んだ。


飾りモノなんだと自覚して、見える景色を引き裂いた。


不要だと両親の世界から破棄された衝動ついでに、招かれざる己を砕き潰してやったんだ。



だからこの程度の息苦しさ、どうってことないと言い聞かせる。


他が向こう側から絡め取られてしまうのならば、何も変わらなくていい。


他に手が届かなくなるくらいなら、今のままでいい。


他であっても変化を望むぐらいなら、退屈でいい。



メールの受信を知らせる音が、そんな思考を助長する。



「ぃ…っ……、は…はぁ…」



軋む身体に鞭打ち、せめて水を飲もうと水道の蛇口を捻っ………



視界が歪み、



全てが回った………――――
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