クラッカーにはご用心
「…くそっ!けんしろー、氷貰って来い!」


「は、はい!」



辛うじて呼吸はしているものの浅く、吐く息が熱いのでかなり高いのは計らずとも見てとれた。



救急車を呼んでも到着には最低数分はかかるから、少しでも熱を下げようと氷を探したのだが見当たらない。



主に寝室用にと使われるであろう小さい冷蔵庫はほとんど空で、ゴミ箱らしき所も同じ。


シンクの上に置いてあるレジ袋には食べ物が入っているのに、手をつけた形跡がほぼ無い。


剣が持たせたスイートピーも、とっくに枯れ果てているのにそのままだ。



6畳にも満たないこのワンルームには、家中どんなに探してもきっと通常の必要最低限も無いだろう。



「兄貴、貰って来ました!」


「遅い!とりあえず、そのレジ袋に氷と水入れ!」



仕事か遊びか。


全てを回ったがアパートの住人は留守のようで、結局大家に頼んでいた為遅くなってしまった。



「蜜穿ー…しっかりせーなぁ…、もうすぐ救急車来るさかいにな……」



氷水のお陰か、蜜穿の表情は変わらないが呼吸はましになった気がする。



近付く救急車のサイレンが、祈る2人に何より安心感をもたらした。
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