クラッカーにはご用心
手に感じる僅かな小銭の感覚。


今ここで野垂れ死んでも、これじゃ火葬代にすらならないと皮肉な笑みを作る。



見えもしないのに、何処からか聞こえてくるのは耳障り極まりないモスキート音。



音色に紛れて歪みだすのは、



悪夢だと思い込んだ叡執といる現実で。


消滅させたハズの殊犂から感じる愛情で。


砕き壊した栲袴に気付かされた生きる理由で。



そのどれもが存在を主張するように、破片が包み込んで纏わりついて離れようとしない。



目を閉じても、

耳を塞いでも、

息を止めても、


気配は消えてくれない。



「あ、れ……?」



まだ咳は出ているはずだ。


なのに、胸が痛くなくなってきた……?



身体を酷使したはずだ。


なのに、身体が軋む音は聞こえなくなってきた……?



きっと完治していないはずだ。


なのに、息苦しいのがなくなってきた……?





大丈夫と、

平気なんだと、

心配いらないと、



嘯き強がった本音は。




無敵の言葉なのか?


それとも嘘の魔法なのか?



「…は…ぁ………」



どうやって息をするのか……?


方法を忘れた。
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