クラッカーにはご用心
「待ってろって、犬やないんやから…ちゅーか、鍵無かったら閉められへんやんか……」



出て行こうにも殊犂が帰って来なければ、開けっ放しになってしまう。


合鍵の在処などもちろん知らない。



管理人が居たとしても事情説明がややこしい上に、殊犂へ変な勘ぐりを入れて欲しくもない。



「しゃーない、お巡りさん待つか…」



通常ならもうすぐ帰ってくる時間。


もし事件なら帰ってこない可能性もあるが……



「……ん?なんで今、それでもええて思おたんや………?」



明日までは叡執は帰らないが、事件で殊犂がそれ以上の時間帰ってこれないなら、片付けられなくて確実に叡執の怒りを買ってしまうだろう。


だが自問自答しても、叡執よりも殊犂を優先している自分がいた。




母親のように、立ちはだかって通せんぼをする前でも、


父親のように、のし掛かって押し潰す上でもなく、



廓念会のように、絡み取るように引き戻す後ろでも、


叡執のように、奈落の底へ引きずり込む下でもない。




気が付けば隣にいた、殊犂が心にいる。



優しく見てくれる殊犂と同じ方向を見たいと、いつから思うようになったのか。
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