クラッカーにはご用心
「いらっしゃいま」


「かしゅーはん、大変や!」



「きゅーちゃん、どないしたん?」



碑鉈の声を遮り、慌てて鰍掩に駆け寄った男―――厩鳬張匆(キュウゲリ チョウゾウ)は、絆栄商事から借金している一人。


前はどこかの社長だったらしいが倒産して、今は路上生活をしている。



「けんしろー君、どないもこないもないわ!金、スラれてもーたんや!」


「はぁ?どういうこっちゃ?」


「今日、利息の期限やから、払お思おてポケットに入れてたんや。やけど、女とぶっかって。今、ポケット見たらこれが。」



張匆の掌には、マジックなのか黒く塗られた五円玉が3枚。



「黒兵衞やな。」


「黒兵衞?きゅーさん、とりあえずお冷やどーぞ。」


「おおきにな、ひなちゃん。」



「黒兵衞ちゅーんは、スリの字や。この五円玉をスッた相手の懐に忍ばせんねん。語呂合わせで五黒三、自分にスラれる為に稼いでくれてご苦労さんってな。」


「今時こんなんするスリおらんで?しかもきゅーみたいな奴スるやなんて、スリの風上にも置けんわ。」



プロはお金の無いホームレスからはスラないと、楮筬は眉間に皺を寄せ嫌悪感を示す。
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