クラッカーにはご用心
彼女がいたなら、蜜穿を保護するのに家は使わないし、涓畤壟にからかわれることもないのだ。


好きとだって思わない。



「鍵はここにある。悪いが取りに来てくれ。」



渡したいのは山々だが、絶対安静だと医者に念をおされている。


ベッドからドアまでの距離すらキツイのも確かだから尚更。



それに、はぐらかされたが、体調は気になっていた。


ここは病院なのだから、説明すれば治療してもらえる。



病室にも入らず、ずっと背を向けているので、顔色を確認しようにも出来ないでいた。



「幸せかどうかは分からんけど、不幸と思ったこともあれへんさかい。」


「は?」



誰も知らない、誰も分からない。


自分すら知ること無く、分からないのだから。



「けど、自分がならな、人を幸せに出来んな。幸せちゅーんがどうゆーもんか分からんと伝えられん。」



幸福の二乗は、理解してこそ。



「貴様、一体なんのことを…」



突然蜜穿が言ったことの意味が分からない。



「鍵はええ。もう帰るし、お大事にな。」


「お、おい……っ!」



閉まるドアに追い掛けようとしたが、阻んだのは鈍い痛みだった。
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