ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
帰る途中にまた、彼女のバイト先である本屋さんを外から少し覗いた。

「今度、参考書でも見に来ていい?」

「参考書?受験終わったばかりなのに?」

ああ、そこか。詩織は不思議顏だ。

「僕は学習塾でアルバイトをしているんだ。春から講師になれるから、勉強しないと」

小学生相手だから、それほどの準備がいるわけではないんだけれど。

「へぇ!塾の講師?すごいね!」

思いもよらない好反応に、僕は戸惑いながらも嬉しくなる。参考書探しはあくまでも口実なのに。

「いや、別に……小学校の先生になりたいから」

こんな口調じゃあ、照れているのがバレバレじゃないか。

情けない、もっと余裕を持って接したいのに。

「ああ、それで塾の講師か」

「うん」

そうじゃなくて。

僕が詩織のバイト先に顔を出していいのかどうかの返事は?僕の将来の夢なんて、今はどうでもいいのに。

「先生か。なんか、いいね」

「そう?」

「うん、いいよ」

それでも僕は、詩織に認めてもらえたようで嬉しかった。

そして詩織にまたひとつ、僕のことを知ってもらえた。
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