ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
でも『番号、教えて』そのたった一言がなぜだか口から出てこない。

きっと詩織はすんなり教えてくれるだろう、そう感じられているのに。

ああ、ダメだな。

左隣りから流れてくる友達のふうことタナカ先輩の話は、耳から抜けていってしまう。

「……でね、ふうこはタナカ先輩に憧れてウチの高校に入ってきたってわけ」

「へぇ、そう」

辛うじてその内容を聴きとり相づちだけを打つ。こんなんじゃポケベルの番号どころか、次会う約束だって怪しくなってしまう。

気取らない自然体の詩織に、今日僕とまた会ってこうして一緒にいてくれている詩織に、僕はもう完全に惹かれていた。

そう、簡単にポケベルの番号を聞き出せないほどに。


「返事、しなくていいの?」

確か公園の入り口付近に公衆電話があったような。

「ん?いいよ後で。どうせ私に伝えたかっただけだろうし」

ポケベルは早くも上着のポケットに戻されていた。そして詩織は最後の一口になったパンを口に入れ、満足そうにご馳走様!と言った。

それから僕ら2人は、いろんな話をした。長い時間、ずっと。
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