ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
「ね、うた。今から一緒に買いに行こう」

そして、私の都合とかお腹の減り具合とか財布の中身、とか……そんなことは一切気にしていない様子でハルは言った。

案外、自由な人なの? いまいち彼の人物像が掴めずに戸惑う。

ついさっきまで周りにはいないような、大人っぽいタイプ、なんて思っていたのに。

「もう、この時間じゃ売り切れてるよ」

ポケットからスマホを取り出すと、もう夕方の5時を過ぎていた。

人気のあるパン屋なので売り切れるのも早いのだ。その辺を知らないあたり、まだまだだな、なんて思う。

それに、私はもうすぐ家に帰らないとならない時間だし。そんなことに付き合っているヒマなんてない。


……そんなこと、なんて思っているけれど。

本当は、一緒に行きたいな、なんて気持ちもあった。

「そっか、残念」

そう言って本当にガッカリした様子で俯くハルを見ていたら、私のせいでもないのになんだか申し訳なくなってきた。

でも私には時間がなかったし、パンが売れ残っている可能性が低いのも事実で。

私にはどうしようもなかった。

「また、明日にしなよ」

そんな風にしか言えなかった。

「本当は私も行きたいんだけど」そう言えたなら、私の気持ちも、ハルの気持ちだって。

楽になるのは分かっているのに。
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