ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる


「……ふぅ」

もう何度目だろう、ため息をつく。

辺りはすっかり夜もふけ、真っ暗な中に街頭に照らされたユキヤナギがボンヤリと浮かんでいる。

ハル……。

何度、心の中で呼んでも彼の声もいいは聞こえてこない、姿も見えない。

いつの間にかスマホの充電も切れ、時間さえ分からない。

さすがにもう、今日は来ないかな。

何かあったのかな。

ハルが買ってくれたハートのヘアゴムを掌に乗せしっかりと握りしめる。暖かい、木の温もりが伝わってくる。

そうだ、きっとどうしても来られない用事ができたんだ。ハルが約束を破るわけがない。

やっぱり連絡先くらい聞いておくべきだったな。

何度も、もう帰ろうと思ったけれど。あと少し、あと少しだけ。そう思ってこんな時間になってしまっていた。肌寒さも手伝って、心細くなってくる。

「……帰ろう」

立ち上がる足はミシミシと音を立てるように痺れていて、お尻は冷たくなっていた。

何やってるんだろ、私。

寂しさと情けなさで、胸の奥がジンと熱くなる。

トボトボと、人っ子ひとりいない公園を歩き自転車にまたがる。

ハルが綺麗な赤だと言ってくれた自転車も、暗くて何色かよく分からない。
< 141 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop